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190311【都市系講演会】明治神宮と表参道・渋谷の100年〜「伝統」と「未来」を考える/今泉宣子@國學院大學

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概要

東京・渋谷の國學院大學で明治神宮と周辺地域の歴史に関しての講演会が開催された。講演者は明治神宮神道文化研究所の今泉氏。

内容は大きく2部構成で、最初に神宮の杜の誕生とさまざまな奉仕者たちの変遷が語られた。この誕生の物語は、空間・時間・ムーブメントという3つの視点からの分析が紹介された。

空間という視点からは、明治神宮の全体像とその構成要素など。時間については、杜を育む100年計画のコンセプトなどが語られた。

明治神宮は内苑(ないえん)と外苑(がいえん)からなる2つの領域を表参道と裏参道という2本の接続路でつなげた精神と文化のための複合都市施設である。また、この場所以外に全国に所有する5ヶ所の備林も明治神宮の一部となっている。

一般に、内苑を「神宮の杜」と呼ぶが、これは植林によって形成されてきた人工林であり、企画段階から当時の林学者たちの知恵の結晶といってもよいコンセプトを持っている。都心の大気汚染を予想して耐性を持つ樹種を選び、天然更新による樹種の遷移が100年スパンで計画されているのである。

このコンセプトとオペレーションは『明治神宮御境内林苑計画(1921、大正10)』に詳細にまとめられている。そして、現在までこのインストラクションに従って、粛々と管理が続けられているのである。

今回の講演で最も詳細に論じられたのは、ムーブメントの視点であった。ムーブメントとは、神宮の杜実現に尽力した人々の熱意を持った活動のことである。明治天皇の崩御のあと、神宮の造営が決定するが、当初は場所が決まっていなかった。その誘致の段階から、渋沢栄一を始めとする財界人や阪谷芳郎などの政治家が尽力し、現在の場所になる。その後も、全国からの10万本を超える献木や青年団などののべ11万人による勤労奉仕などを経て、1920年に神宮の杜が成長の端緒についたのである。

ところが、太平洋戦争の際の空襲(山の手空襲)で社殿が灰燼に帰してしまう。すると、戦後再び最建に向けて人々が集い始める。明治神宮崇敬会や明治神宮奉賛会という民間の組織がたちあがり、資金調達や勤労奉仕が創建時と同じように行われたのであった。

表参道についても、創建時に参道の両側に欅(ケヤキ)が約200本植えられたが、空襲で13本を残して消失したのである。しかし、創建時にケヤキを奉納した造園業者が再び植樹を行い、ケヤキ並木の復元に尽力したとのことであった。

近年の科学的調査により、現在の神宮の杜は植生遷移が進行し、人工の森から自然の森に近づいていることが確認されており、昆虫やキノコなどの新種の発見もあった。しかしながら、ヒートアイランド現象の影響などで、生物相が変化してきており、都市の中心部にある稀有な生態系を宿す杜の将来は安泰ではないのである。

感想

『明治神宮御境内林苑計画』の目次を見ると、非常にロジカルに林苑の設計思想から、実施の手順、さらに管理や保護の方法まで詳細に書いてある。

そして、それに従って100年管理して育てた結果、人工とは思えないような豊かな森が都心に広がっている。

さらに、特筆すべきは、この計画に従って多くの人々が尽力している点である。さまざまな思惑はもちろんあったであろうが、その基本にはボランティアスピリットがあったように感じる。人々を駆り立てたものは何だったのだろうか。

建築に関わるものとして学ぶべきは、透徹した計画と、そこにかかわる人々の情熱の両者があって、初めて魅力的な都市的空間が誕生し維持され得るという点である。この両輪がうまく回っていれば、そもそも「保存」などという概念は無用に思える。

日本はスクラップ&ビルドの国であるように思われるが、100年前から永続性を目指し、成長を続ける空間が目の前に存在するありがたさに、改めて気づかされた。

参考情報

明治神宮歴史データベース

明治神宮では「明治神宮百年誌」編纂事業の一環として、明治神宮に関する歴史情報を提供するデータベースの提供を開始している。今後さらに内容の充実が図られるようである。

藤岡洋保『明治神宮の建築』鹿島出版会、2018

今回は明治神宮の杜の発生や維持に関わるダイナミズムに話題がフォーカスされたが、明治神宮の建築については藤岡東京工業大学名誉教授が編纂された書籍が昨年刊行されているので参照されたい。

明治神宮編『明治神宮叢書』(全20巻)明治神宮社務所/国書刊行会、2006

『明治神宮御境内林苑計画』は『明治神宮叢書』の13巻に『明治神宮内苑林苑ノ計畫一般及将来施業ノ方法』として収められている。

國學院大學 研究開発推進機構 

今回の講演内容は國學院大學渋谷学研究会から『渋谷学ブックレット』シリーズの一冊として刊行予定とのことである。

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