動的平衡生命論

190521【生命と文化】DNAとは何か?

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概要

2019年度第三回目の福岡教授の講義では、科学史的観点から「DNA」発見の歴史と構造などについて解説があった。また、DNAをめぐる科学倫理上の問題点についても触れられた。

DNAの二重らせんの機能

DNAが二重らせんであることは、構造モデルなどによって一般にもよく知られている。では、「二重」であることと「らせん」であることの利点はなんであろうか。

まず、線状の形態が「らせん」形になると、絡みにくくなる。昭和期の固定電話に使われていたコードも、絡まないようにらせん形になっていた。さらに、らせん形は二重・三重にらせんを重ねることができる。これには、最大長の線状の物体を最小の容積に、絡むことなく収容できる効果がある。

次に、「二重」になっていることは、生物の要件である「自己複製機能」を担保する。DNAの構造は、点対称の位置にある2つのらせん上の線からなっている。ここでは、それぞれの線上の対応する位置に相補的な物質が並んでいるのである。そして、この二重になった「鎖」がとけて、単一のらせんになったとき、写真フィルムのネガとポジの関係のように、相補的なコピーが作られることになる。ここに、巧妙に仕組まれた自己複製システムを見ることができる。

DNAの「発見」はワトソンとクリックだけの業績なのか?

生物の遺伝情報がDNAに記されていることが「発見される」までには、様々な科学者達の不断の努力があった。だが、ノーベル賞受賞者以外の研究者の名前が知られることはほとんどないのが現実である。

一般的に知られる科学史の記述では、1953年にワトソン(James Dewey Watson, 1928 -)とクリック( Francis Harry Compton Crick, 1916 - 2004)が科学雑誌Natureに発表した2ページの論文に、その「発見」の名誉が与えられている。そして、その9年後に彼らはウィルキンス(Maurice Hugh Frederick Wilkins, 1916 - 2004)と共に、ノーベル生理学・医学賞を受賞する。

しかし、その発見を導くまでには、ロザリンド・エルシー・フランクリン(Rosalind Elsie Franklin, 1920 - 1958)や、オズワルド・セオドア・エイブリー(アベリー) (Oswald Theodore Avery, 1877 - 1955)の研究が前提となっていることを忘れてはならない。フランクリンの研究は、機能的な意味でのDNAの構造を証明していたのであり、エイブリーは遺伝子がDNA(デオキシリボ核酸、deoxyribonucleic acid)であることを明らかにしていた。

DNAの「発見」について、研究者の業績に正当に見合う「賞」があるとすれば、発見者の名前には、フランクリンとエイブリーの名前が刻まれてしかるべきなのだ。

感想

大学の学部生レベルでは実感はないかもしれないが、大学院に行けば、研究者の世界がすぐれて政治的なものであることがよくわかる。大学病院を扱ったテレビドラマでは、教授たちの権謀術数な振る舞いが描かれる事が多い。しかし、これは研究者の世界では、分野にかかわらず散見できるものである。

とくに、ノーベル賞という研究者のなかでは最高権威に値する賞を取れるとなれば、謀略の限りをつくしても一番乗りをすることなど、なんのためらいもないのかもしれない。

とはいえ、一時的に注目を集め、時代の寵児扱いされたとしても、歴史の試練に耐えることは容易ではない。DNAをめぐるエピソードは、科学の歴史全体から考えるという鳥瞰的視点〜福岡生命論の用語でいえば「時間軸」〜こそが、正しい認識に重要な役割を果たすことを教えてくれている。

参考情報

福岡伸一『生物と無生物のあいだ』2007、講談社

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