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190306【建築系シンポジウム】幻の建築家たちの教え フィールドワークと実践をつなぐもの/原広司・古谷誠章・布野修司・陣内秀信@建築会館ホール

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概要

建築のフィールドワークという方法論の系譜をまとめた新刊書出版を記念して、東京・三田の建築会館ホールでフィールドワークの実践者を招いて、3時間半を超える密度の濃いシンポジウムが開かれた。

主な登壇者は、執筆者の中から選ばれた、原広司東京大学名誉教授・古谷誠章日本建築学会会長・布野修司日本大学特任教授・陣内秀信法政大学名誉教授であった。

第1登壇者:原広司

最初の登壇者である原氏からは、次のようなさまざまな言葉が提示された。

フィールドノートの集積的な保存を、心に留め置いたらどうか。

[感謝とともに、語りかける言葉]

私たち(人間)は、さまざまな矛盾のなかに生きている。

[基本的な命題α1]

今日、世界は、(ルネッサンス以上の文化的な)大変革期にある。

[基本的な命題α2]

諸科学は、やがて、客観的な秩序を記述するであろう。

[α1に対応する命題β1]

自由・平等は、さしあたりの理念たりうる。

[α1に対応する命題β2]

(フィールドノートの対象あるいは)集落には、花がある。

[私の感想1]

フィールドノートの作成は、(楽で)、さわやかである。

[私の感想2]
第2登壇者:古谷誠章

2番目の登壇者である古谷氏からは、フィールドワークを始めたきっかけやその後の展開が紹介された。約25年前の「せんだいメディアテーク」コンペがきっかけになり、それまでに行っていた「窓」の研究という視点をもとにイタリアのいくつかの集落調査が行われていたとのこと。スライドを用いて、建築や材料の地域的特徴について魅力的な解説を聞くことができた。

ちなみに、開口部には2種類があるとの指摘がなされた。「窓(まど)」は外部から内部になにかを導き入れるものであり、「間戸(まと)」は、いれたいものを通し、いれたくないものを排除するためのフィルターである。これは、フィールドワークの中から発見した違いである。

イタリアの各集落にある石造建築は、その土地の材料で作られており、それが風景に馴染む要因の一つになっている。また、開口部の大きさ・ディテール・方向などからは、その地域の生活文化を読み取ることができるとの話であった。

その後に行った東南アジアのフィールドワークについても事例が示され、「shuffled(ごちゃまぜ空間)」、「半透明空間」などの概念が提示された。

第3登壇者:布野修司

3番目以降は、原・古谷両氏のプレゼンテーションを受けて、コメンテーターとしての役割が期待された。まず、原研究室出身の布野氏によって「都市組織研究からZへ」と題して、これまでの研究について、思考のプロセスとフィールドワークの実例が紹介された。

最後に「調査心得7ヶ条」として臨地調査フィールドサーベイの際のふるまいや考え方が示された。概略を紹介すると以下のようなものであった。

1. 経験(体験)の重要性
2. あらゆる関係が調査の基盤になること
3. 臨機応変の知恵
4. 発見または直感を大切にすること
5. メディアと表現の可能性
6. ディテールに世界の構造を見ること
7. 得られたものは世界に投げ返すこと

第4登壇者:陣内秀信

4番目は、「建築史学からのフィールドワークへの挑戦」と題した陣内氏のプレゼンテーションであった。自身の研究履歴をたどり、各段階でのトピックを紹介するというスタイルで話が進められた。

ヴェネツィアで学んだ「都市を読む」方法としての建築類型学(tipologia edilizia)から始まり、建築以外の要素を包括的に取り込んで日本の都市を読む「空間人類学」へ発展してきた思考の展開プロセスが明快に提示されていた。

パネルディスカッション

最後に、4人の登壇者にコーディネーターとして建築学会建築計画委員会の委員を加えてパネルディスカッションがあった。

原氏からは、建築における「モノ」と「出来事」、時間の考え方、歴史の重要性、70年代にフィールドワークを始めた頃の厳しかった状況、フィールドワークの教育的効果が述べられた。

また、フィールドワークの有効性に比較して、内容を表現するための記述方法の開発が不十分であること、その記述方法として現代幾何学に可能性があることが主張された。

原氏に対する応答として、布野氏と陣内氏からは、研究方法としてのフィールドワークで扱う歴史が、伝統的な歴史学とは様相が異なる点、建築のかたちに注目するティポロジアでは、出来事としての建築現象を捉えきれない点が指摘されていた。

古谷氏は、原氏の大学院講義を受講していた頃の知的刺激を回想しつつ、フィールドワークの持つさまざまな効能について指摘していた。とくに、調査する側にもされる側にも良い影響が及ぶことが強調されたのである。

なお、原氏からの指名により、大田邦夫東洋大学名誉教授が自身のフィールドワークについての履歴やその目的などについて、会場から返答されていた。

コーディネーター側からの「フィールドワークの未来について」を問う最後の質問では、陣内氏よりこれまで以上に対象が拡大する可能性が述べられた。

また、これまでのように「花」を求めて行くだけではなく、それが失われる危険を公知し対策を考えるための基礎資料を提供するという事例が増えるであろうとの古谷氏の指摘があった。

集落調査事例紹介:原広司
青丸部分は「標準語を喋ろうとする集落群」、赤丸部分は「方言しかしゃべらない集落群」

シンポジウムの締めくくりとして、原氏によるプレゼンテーションが行われた。

集落には大まかに2タイプあり、他の集落と同じ建築言語による造形が見られる「標準語を喋ろうとする集落」と、集落ごとに屋根形状や壁の構築方法が異なる「方言しかしゃべらない集落」がある。

前者は主にイラン高原で、後者はアフリカ西部で見られ、その実例が写真とドローイングにより解説されたのである。

参考情報

イベントリーフレット(PDF)

http://www.aij.or.jp/jpn/symposium/2018/190306_j140.pdf

出版された書籍情報

日本建築学会編『建築フィールドワークの系譜』昭和堂、2019

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