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190126【建築系対談】富田玲子&長澤悟「子どものための建築、子どもの生きる空間、子どもが暮らす学校」@パナソニック汐留ミュージアム

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概要

現在開催中の「子どものための建築と空間展」の記念対談がパナソニック汐留ミュージアムで開催された。登壇者は象設計集団の富田玲子氏、建築計画学研究者であり展覧会監修者でもある東洋大学名誉教授の長澤悟氏。

構成は、まず長澤氏、富田氏の順番でスライドレクチャーがあり、最後に対談となった。主なテーマは象設計集団による「学びのための空間」形成の考え方や学校建築の変化と問題点などが論じられた。

学校建築という環境(長澤)

生物学者の福岡伸一氏による「遊びについて」の考察は子どもの空間計画にとって示唆的である。氏は、人間の子供時代というものが、数ある動物の中でも長期にわたることを指摘している。ほとんどの動物は、生まれると早期に自立的な生活に移るものが多いが、人が成長して「成人」とみなされるまでには、20年近くかかるのである。

この理由は、長期に渡って「遊び」が許される期間を設けることで、万物の長であるために不可欠な多種多様な体験をする機会が提供されていると考えられる。そして、それを可能にするのが「環境の多様さ」といえる。

学校を含む教育の場とは、大人が関わる子どもたちの場である。子どもの時期にはしっかり「遊ぶ」ことが人間形成に重要な効果を持っている。そのための多様な環境を用意しておくことが建築設計者の役割であり、多様な環境をもった空間的な設えが学校建築なのである。

建築計画という視点からみれば、戦後の学校空間は、1984年頃に大きな変革期があった。画一的な教育の弊害で学校が荒れた時期があり、その改善策として子どもの個性に寄り添い、自発的な遊びの空間をビルトインするようになったのである。

子どもたちは「未来の担い手である」という意識を忘れてはいけない。

オノマトペで学びの場を最適化する(富田)

子どものための空間を考える時に共通する視点は3つ挙げられる。テーマと共にキーワードを紹介する。

1.子どもたちの心身がのびのび育つ心地よい暮らしの場であること

  • いろいろな場所、五感に訴える、不思議、内と外
  • これらはオノマトペによって表現することで空間の創造につなげることができる

2.ここにしかないという地域のシンボルであること

  • 地域の特性を反映した空間、ユニークな保育・教育方針を活性化する空間、子どもも大人も計画から建設そして運営に参加できるプログラムが育む当事者意識

3.自然とともにあること

  • 光、風、緑、花、鳥、水、虫、土、そして子どもが渾然となる世界
  • 時、四季、天候の移り変わりを楽しむ世界

感想

子どもは、場所の特性を敏感に掴んで、想像力を用いてあらゆる空間を現出させる能力に長けている。眼の前に何もない原っぱがあっても、彼らにとっては無限の宇宙が広がっているのである。

優れたデザインの遊具などなくても、落ちている枝や拾ってきた石ころで、不自由なく遊べる能力は大人には、ない。

建築設計者にできることは、このような創造的能力の邪魔をしないように、精神的にも身体的にも開放的な環境を設えることだけであろう。

多様さの中に軸をもたせる

遊びを誘発する多様な空間の重要性が問題になったが、富田氏による「軸」の必要性の話は面白かった。氏によれば、多様な場は必要だが、あればよいというわけではない。そこには「何らかの軸」が必要で、周囲との関係をキリッとした線で結んでいくような軸がなければならないのである。

設計者の仕事はこのあたりにある。

象設計集団の設計方針

質疑応答の時間に、象設計集団が歴代受け継いできた3つの設計方針の話が出たのでここで紹介したい。

1.地域をよく見ること
2.みんなで意見を出すこと
3.手をうごかすこと

これらは、モダニズムの教条主義的な性格とは真逆のものである。建築にインターナショナルな価値を持たせようとししたり、建築家とその作家性を極端に強調したりすることへの反省から生まれたのが、象設計集団であるというのがよく分かる。

なお、手を動かすというのは、過去のモダニストもやっており、現代のまともな設計者も同様である。この点は、現代の設計プロセスが手を動かさない傾向に堕していることへの批判とも言えよう。

参考情報

建築展情報:子どものための建築と空間展
2019年1月12日(土)~3月24日(日)

https://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/19/190112/

象設計集団 official site

http://zoz.co.jp/

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