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190224【美術系展覧会】フェルメール「音楽と指紋の謎」展@恵比寿三越

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概要

2018年12月から2019年2月末まで、恵比寿ガーデンプレイス内にある三越百貨店で、フェルメール「音楽と指紋の謎」展が開催された。

この展覧会には現存するフェルメールの37作品が「リ・クリエイト」と呼ばれる手法で複製され、制作年代順に展示されていた。また、主催者である生物学者福岡伸一氏の最新のフェルメール研究の成果も併せて紹介があった。

リ・クリエイトとは?

絵画の複製品はミュージアムショップなどで一般的に販売されている。それに対して、本展覧会での展示に使われた「リ・クリエイト」作品は科学的な方法が用いられた複製品である。デジタル・リマスタリング技術を応用して、描かれた当時の色調とテキストを再現しようとする点が従来の複製とは異なっている。

リ・クリエイトによる絵画展の意義
1. 描かれたときの色をとりもどす

いわゆる「真作」といわれる作品は経年変化の影響を免れない。たとえば、フェルメールの生きた時代は17世紀のオランダであり、その作品は描かれてから既に300年以上の時間が過ぎている。一般に、鮮やかで発色の良い絵の具ほど、退色や劣化が進行したときに、見た目の色がオリジナルとは異なったものになる。

つまり、現在美術館で見ているフェルメールの「真作」絵画は、描かれた当初の印象とは大きく異なっている可能性があるのだ。

リ・クリエイトによる絵画は、絵画を一旦デジタルデータ化して、色ヒストグラム分析、デジタル修復技術、紫外線プリントなどの技術を用いて、描かれた当時の色彩・質感を再現する。フェルメールが描いた時の見た目を楽しむことができるのである。

2. すべての作品を時系列で並べて鑑賞できる

フェルメールの現存する作品は40点に満たないが、それは世界中に拡散している。真作を一同に会して、時系列順に比較検討することは事実上不可能といえる。

しかしながら、画家の思想や技量の変化を確認するには「すべてを並べて見る」ことが最も有効な方法なのである。

リ・クリエイト技術は、その一覧性を可能にする。また、一部の研究者のみではなく、広く一般にフェルメールの全体像を体感する機会を提供できるのである。

今回展覧会の新しい内容とは?

過去に銀座などでフェルメールのリ・クリエイト展は開催されているが、今回は以下の新コンテンツが追加されていた。詳細については、福岡氏による後述の関連書籍『フェルメール 隠された次元』を参照されたい。

新しい研究1:指紋認証による真贋判定

フェルメールの作品の中には真贋が確定していないものがいくつかある。フェルメールに限らず、これまでの美術作品の真贋判定は美術史家など専門的研究者の文献調査や推測によるものがほとんどで、科学的に実証性を持つとは言い難い面があった。

今回、新しく提案された方法は、絵画の表面をデジタルスキャンし、そこに残された指紋を判別することで、真贋判定のオプションを提供するという意欲的な試みである。

新しい研究2:画中に描かれた楽譜からの当時の音楽の再現

フェルメールの作品の中には、画中画的に「楽譜」が描かれた作品がある。『稽古の中断 Girl Interrupted at Her Music(1961)』には、テーブルの上に楽譜が置かれており、その譜面を解読することで、当時の音楽の再現を試みるプロジェクトが進行している。会場では、実際に再現された音楽を聞くことができた。

感想

本展覧会によって、芸術作品の「鑑賞」とはどのようなものなのかについて深く考えさせられた。

フランスの作家であり文化大臣を務めたアンドレ・マルロー(André Malraux, 1901-1976)は、かつて「空想美術館(Le Musée Imaginaire)」という概念を提示した。

これは、複製された作品を並べて比較検討することにより、作品の新たな価値を発見する試みであった。知的な活動としての美術研究では、複製を使用しなければできないことがあるのだ。

一方、本物を鑑賞できる機会である美術展に行ったからといって、その目的を完遂できたかどうか疑わしいことも多い。

日本で開催される美術展覧会は、有名アーティストの作品群であれば、混雑を容認しなければ鑑賞することは難しい。チケットの入手に数時間並び、館内に入っても係員の誘導に従いながらの作品鑑賞を余儀なくされる。

場合によっては、作品の前に立ち止まることも許されず、いわば数十秒間の「逆回転寿司状態」での鑑賞に数千円の出費と多大な時間を投入する必要があるのだ。

仕方がないので、図録を購入して自宅で「複製」を眺めて満足するしかない。「本物」を数十秒見て、「複製」をゆっくり見ることが、そもそも「芸術鑑賞」といえるのか?

たしかに、日本の美術展覧会のシステムは諸外国とは異なり、歴史的な背景が絡んだ特殊な事情がある。大手メディアがスポンサーとなり、作品の誘致をマネジメントし、「レンタルスペース」として美術館を「利用」するのである。

学芸員は図録のために様々な文章を書き、イベントをこなすが、美術館への収入は常設展に相当する割合しか入らないケースも多いと聞く。

本展覧会は、気軽にフェルメールの作品を楽しめる機会であるとともに、現在の「美術鑑賞産業」に対しての痛烈な批評であるように感じた。

参考情報

展覧会

フェルメール「音楽と指紋の謎」展
2018年12月15日(土)~2019年2月24日(日)

https://www.re-create.gallery/vermeer2018ebisu/

関連書籍

福岡伸一『フェルメール 隠された次元』2019, 木楽舎

http://www.kirakusha.com/book/b436739.html

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