Chaptre VIII TROISIÈME ESSAI DE L'ANNEAU / LE PETIT SOUPER
第8章 指輪の3回目の試用 夜食会
本文和訳
【l.29 C’est propos conduisirent ...】
このような会話*は、シャンパンを楽しむ流れになりました。人々は気を許し、ほろ酔い気分になったのです。そして、宝石たちは熱気を帯びました。その時、マンゴギュルはもう一度茶目っ気を出そうと考えました。彼は指輪を1人の快活な若い娘に向けて回したのです。その娘は、マンゴギュルの近くで、夫(ユッサン)の向かい側に座っていました。すると、テーブルの下からうめくような音が聞こえてきて、弱々しい声がしゃべったのです。
「もう!つかれちゃったわ。もう無理。神経がすり減っちゃった」
「おお、神よ!なんということだ」とユッサンは叫んだのです。「妻の宝石がしゃべっています。何を話すのだろう」
「皆で聞いてみようではないか」とマンゴギュルは答えました。
「皇帝陛下、私がここに居並ぶ聴衆から外れることをお許しいただけますでしょうか」とユッサンは返したのです。「もし、宝石が何か愚かな言葉を漏らしてしまったら、陛下は何とお考えになりましょうか...」
「お前は愚か者だな」とマンゴギュルが答えました。「宝石のおしゃべりに怯えているとはな。宝石がしゃべろうとすることの大部分については、皆が知らないとでも言うのか。また、残りの部分について言い当てられないとでも言うのか。わかったのなら、座って楽しむよう務めるがよい」
ユッサンが座ると、妻の宝石はまるでかささぎのようにペラペラと喋り始めたのです。
「のっぽのヴァラントをずっと私のものにできるかしら?何人もの男性に絶頂を経験させられたけれど、彼ったらまったく...」
この言葉で、ユッサンは狂人のようなって立ち上がり、ナイフをつかみ、テーブルの端に向かって突進して、もしまわりにいた者達が引き止めなければ、妻の胸を(ナイフで)貫いていたところだったのです。
* 女性たちに非礼を持ちかけていた会話。場の空気を懐柔する策として、シャンパンが振舞われる事になったのであろう。
読解のポイント
1. 【p.54 l.30】ほろ酔い気分の表現
* on se mit en pointe ‹ avoir une pointe de vin = être en pointe (de vin)
2. 【p.54 l.29】Champagneについて
* フランスのブドウ畑は修道士によって開墾された
* 特に、シトー会の白衣僧による
* ワインはキリストの血でもあるため、ワイン製造は単なる収益源ではなかった
* ロマネ・コンティの畑は、クリュニー修道院の所有だった
* シャンパンの発明は17世紀後半のドン・ペリニョン修道士とされている
3. 辞書を「読む」効用
* 辞書・辞典は自分の発想の限界を広げるために「読む」とよい
4. 性描写について論議
文学としては「チャタレイ夫人の恋人」がある
* 身分制社会で、上流階級の女性が下層階級の男性と関係を持つという点がスキャンダラスであった
5. 【p.55 l.08】de par la Pagode Pongo Sabiam
* 物語の舞台が西欧ではなく、キリスト教を信奉しないオリエント地域の国なので、意味不明の神の名が採用されている
6. 【p.55 l.23】j'en ai vu qui finissaient, mais celui-ci...
* finir には隠語として「オルガスムスに到達させる」の意がある(小学館ロベール仏和大辞典)
解説と雑感
このパートは、宮廷の女性たちの宝石に喋らせる効果を持つ指輪をはめた皇帝マンゴギュルによって、すでに何人かの女官が暴露話をさせられたあとでの食事会の場面です。
宝石が真実を喋っているかどうかについて話題になり、女官たちはそのような真実性を検証する必要はないと主張します。皇帝は女性に対して失礼なことを聞いてしまったと考え、それを詫びるためにシャンパンを振る舞うところから今回のテキストが始まります。
18世紀も21世紀も男女関係の関心ごとは、あまり変わっていないのがよくわかります。宝石(=女性器)が本人の意思に関わらず喋ってしまうという奇想天外な設定ではありますが、その内容は全く古さを感じさせないようです。夫が激怒して刃物を持ち出すあたりも、女性週刊誌などのネタとしては現代でもよくある話ではないでしょうか。
資料出典:Denis Diderot, Les Bijoux indiscrets
Editeur : Flammarion (7 janvier 1993)
Collection : Garnier Flammarion / Littérature française
このページでは、18世紀フランス啓蒙主義期の思想家・美術批評家・作家であるドゥニ・ディドロ Denis Diderot 1713-1784による小説の対訳や読解のポイントを掲載しています。