
概要
18回目となる福岡教授単独講義である「動的平衡ライブ」が築地で開催された。
まずは、近況報告が2件
1つ目は、ある企業の広告に使われた「モルフォ蝶」とデザインの話題。この広告に使われている蝶の表現は、美的効果を強調するあまり、昆虫の生態についての事実を歪曲しすぎているきらいがあり、「虫好き」としては許しがたいということであった。
2つ目は、がん治療における放射線について。坂本龍一氏との対話において、がん治療の際の放射線の源はどうなっているのかという話題になったらしい。これは、イリジウム(原子番号77、元素記号は Ir)のペレットを原子炉で被爆させ、不安定化処理をすることで、医療用の放射性物質を得ているということであった。おどろいたのは、このような医療用放射性物質は通常の郵便システムで流通しているとのこと。輸送中のアクシデントによって、たまに被爆事故も起こっているらしいが、話題にならないらしい。
新著『フェルメール 隠された次元』
本日のメインの話題は、フェルメール関する新しい研究についての新著について。
新著『フェルメール 隠された次元』の章立てに沿って、著作に書いてあることや書けなかったことを、いつもより時間オーバー気味に解説して頂いた。
なお、『フェルメール 隠された次元』の大まかな章立てとしては以下のような内容になっている
第一章 なぜフェルメールが好きになったのか
第二章 フェルメールの真贋論争に一石を投じる「指紋認証」による科学的な方法の提案
第三章 フェルメールの画中に書かれた楽譜から、当時の音楽を再現するプロジェクトの紹介
残念ながら、時間の関係で第二章までの解説となった。次回の動的平衡ライブに期待したい。
感想
新著の解説と同時に「知恵の学校」の目的や理想とする人物像について触れられたので紹介したい。
時間軸を持つ
知恵の学校は、近年失われてきている読書習慣の復権を目的としている。そして、その基本的な態度は「時間軸を持つ」ということにある。ある分野について、知識としての理解を超えて教養にまで高めるには、時間の意識が不可欠である。たとえば、生物学を学ぶには、生物学史を学ぶことで、個別の知識の集積から、ある種の哲学的な理解に至ることができる。
理想の人物像としてのレーウェンフック
また、知恵の学校の対象はある分野の研究者ではなく、一般読者である。専門的職業としてではなく、読書を楽しむという態度が基本にある。この意味では、フェルメールと同時代に生き、研究者ではなく一般の「オタク」として、自作の顕微鏡でさまざまな発見をしたレーウェンフックこそが、知恵の学校の理想とする人物像なのである。
参考情報
本日のブックリスト
課題図書
『フェルメール 隠された次元』福岡伸一、木楽舎、2019
参考図書
『わたしのすきなもの』福岡伸一、婦人之友社、2019
『ダーウィンの「種の起源」はじめての進化論』サビーナ・ラデヴァ作・絵、福岡伸一訳、岩波書店(2019年春刊行予定)
『盗まれたフェルメール』朽木ゆり子、新潮選書
『指紋を発見した男ーヘンリー・フォールズと犯罪科学捜査の夜明け』コリン・ビーヴァン著、茂木健訳、主婦の友社
『私はフェルメール 20世紀最大の贋作事件』フランク・ウィン著、小林頼子・池田みゆき訳、武田ランダムハウスジャパン